求道者たち

vol.03

 道はあるか。どこにあるか ー理念を追い求め、社会が、国が進むべき道を模索し続ける人たちがいる。時に周囲から厳しく批判され頓挫しながらも、常に高くアンテナを張り、書を片手に実世界に学ぶ姿勢は、現代の求道者とたたえても過言ではないだろう。

正射必中(4)ゴディバ ジャパン  ジェローム・シュシャン氏

自らの横並び意識か、周囲からの同調圧力からか、「他の人と違う」ことはしないし、しにくい空気が日本にあることは否めない。ではどうやってそこから抜け出すか。シュシャン社長はどのように歩いているか。ちょっぴりビターな求道者の物語の最終回。
モデレーター 松本美奈(上智大学特任教授)

過去は見ない。「瞬間」を見る

― 周囲と違うことをするのは、なかなか大変ですね。例えば「石の上にも3年」。まずは我慢と言われてきました。ところが著書「働くことを楽しもう。」では、「石の上に3年」は意味があるのかと疑義を呈しています。さらに転職のメリットまで踏み込んでいます。経営者として言わないようなことを書いています。その真意をお話しいただけないでしょうか。今、価値観の転換点にいます。転職がステップアップの手段、副業を持つことができるようになったと報じられるようにはなりましたが、まだ一般的に浸透しているわけではありません。

シュシャン そうですね。今、世界が変わるスピードがどんどん早くなっている。想像を超えるスピードで変わっています。今の常識と5年後の常識はきっと全く違うでしょう。今、みんな「何それ」ということが、5年後になったら「こんなことは常識ですよ」というでしょう。すでに今は5年前とも全く違いますからね。例えば今、コロナのために、リモートワークにして、フレックスタイム制になった。会社は11時に来ればいいとか、服装もネクタイをつけなくていいとか。10年前、いえ5年前だったら、何言っているの、と笑われたでしょう。そんな時代の「3年」にどういう意味があるのでしょうか。今は一日一日、「一射一射」が大切なのです。今、この「瞬間」が重要です。もちろん、将来をプランする、方向性はあってもいいと思います。

曄道 今さえよければいい、という意味ではないのですね。たくさんの情報を瞬時に深く読み込んで、判断するということでしょうか。

シュシャン 私は将来、この国に住みたいとか、経営者になりたいとか、マーケティングやりたいとか、そういった大きなビジョンがあるといいと思います。ただ、その一日一日がどうなるかは、分からない。
例えば転職して、ある会社に入り、自分の価値観と会社の価値観に大きなギャップがあった。じゃ、そこで今まで通り3年、5年、10年我慢する必要はないと思います。
それよりは、会社にまず「私はこんなことをしたいから、ぜひチャンスをください」と言う。それで会社が「ノー」といったら、違う所が私を呼んでいるかもしれないと信じて、転職してもいいと思います。

― 的に当てることよりも、一射一射。その時に重視するのは、何でしょうか。

シュシャン 弓を最大限に引いたときに考えるのは、「今、この瞬間」があるだけです。このときに後ろをふりかえらないことが大事です。過去を見ない。過去は、もうないことです。過去にこうすれば成功したのにと考えて行動すると、絶対にそうはならないですね。だって、今、価値観も社会も全部変わってくるから。 将来どうなるか、なりたいか、そこから引っ張ってくるのです。

曄道 過去と今は違う。まずはそこを認識しないと、射ることはできませんね。

シュシャン そう、だから将来を読み、今を感じることは大事です。過去、自分の親たちはこうやっていたから、私も同じようにしようではない。これは過去のパターンで、次は全く違うことを考えなければいけないと思うんですよ。

― 先ほど、一生懸命勉強して大学に入ったとおっしゃいました。入学後はどんな学生だったのでしょうか。

曄道 とても知りたいです。

シュシャン すごい結果主義者でした。試験ではいいスコアを取らなきゃとか、審査をパスしなきゃとか。フランスのグランゼコールでは、2年間、眠れないくらい勉強しなければいけませんでした。毎日毎日、休まない、ホリデーもない。試験にパスしたら、その後は保証される。でもその2年間を本当に楽しく勉強したのか。実は、その試験のためだけに勉強したのではないかという疑問があります。
そこで一生懸命だったことが、私のキャリアに関係あったか。全く関係ない。どうしてかというと、グランゼコールを出たら、一般的には銀行やコンサルタントカンパニーなど、フランスの大手の会社に入ります。けれど、大学時代、『弓と禅』という本に出会い在学中に座禅をするため初来日しました。その後、日本文化を題材にした懸賞論文にて優勝し、再来日しました。パリ老舗の名門ジュエラー「メレリオ・ディ・メレー」に就職し、日本に渡ってきたのが1985年のことです。

― 日本に来たとき、結構がっかりされていたのでしょうか。

シュシャン 私はいい大学を出るという目標は達成したから次はもうちょっとアドベンチャーをしたくなったのです。だから、日本へ来たときに全く日本語をしゃべれなくて、文化の違う国で全てが新しく見えました。そういうアドベンチャーにすごく感動しましたね。

― そこで弓道にも出会い、変化が始まるわけですか。

シュシャン 徐々に。やはり、弓道といえば修行といいますかね。少しずつ、結果主義の悪いところがよく分かって、徐々に、ベーシックというか、プロセスの重要さに気づいていったのです。最初は力んで、それがプロセスを優先させて結果が出るようになると、自信になる。そういう繰り返しでした。

曄道 それはすごいですね。結果が出ると、結果主義から抜けられなくなると思うんです。そこから道を切り替えるという勇気はすごいですね。弓道を始められる前から、やっぱりそういうチャレンジングなスピリットをお持ちなんですね。

― これまでで最大の挑戦は何ですか。

シュシャン いつも違うチャレンジをしてきましたから、何を最大と言ったらいいでしょうね。昔の最大のチャレンジは、行きたかった大学を卒業すること。でも達成したら、また次の山が見えてくる。そんな感じです。
十何年前になりますが、弓道の4段の壁も大きなチャレンジでした。そのときビジネスに夢中で、稽古をあまりしていなかった。だから審査をすごい意識してしまい、15回か16回も落ちてしまいました。落ち込んで、これはもう絶対に乗り越えないといけないと思って、一生懸命に稽古して4段を取りました。その後1か月後は本当に自分が別の人みたいな射になっていました。ミラクルです。先生から「どうしたの、恐ろしい」と言われました。まるっきり型が変わり、それが1か月も続いたんです。ところがその後、前の癖が戻ってきてしまいました。

曄道 山を越え、目標は達成できたけれど、その後は戻ってしまう。そういうものですか。

シュシャン 達成する前にすごいエネルギーかけて、達成したら1か月ぐらいで戻る。半年、1年後には、達成したことすら忘れるぐらいになっちゃうんですよ。
ビジネスも同じようなことがあります。ゴディバ ジャパンが7年間ですごい伸びたので、今後、どうしたらもっと大きく伸びるのか、次のチャレンジですね。その時には、7年で3倍なんてことは忘れて、この会社に初めて入ったつもりになって、さあ今後どうするかって。
目の前の壁を壊すと、また次の壁が出てきて、また壊してまた次という感じです。

― その壁を壊すときにも努力が必要で、苦しいわけですよね。

シュシャン そうですね。でも成功した人の本をいろいろ読むけど、どこまでどれほど苦労したかって、あまり発表されてないですね。私は、どっちかというと結構苦労していると思うことが多いですね。

― どうやって乗り越えていらっしゃるのか。

シュシャン 諦めないだけ。何回も、何回も挑戦する。

曄道 諦めない。シンプルだけれど、難しいですね。

シュシャン 努力していれば、いつか運が開けます。

― 話は変わりますが、日々、どのように学び、遊んでいらっしゃるのでしょうか。

シュシャン 結構本を読みます。ピーター・ドラッカーで、日本でも翻訳された著書がたくさんありますが彼はすごいマネジメントの大先生というか。それで、彼のブックス、部屋にブックね、ライブラリーあると、それで、彼には本の部屋があると人から聞いたんですけども、彼のデスクルームでたくさん本があって、ほとんどビジネスブックはなかったんです。

― 学生たち若い人にぜひ読んでほしい、お薦めの本があれば教えてください。

シュシャン 『Tao Te Ching 』(Lao Tzu)をお薦めします。

夢が近づいてくる

― 最後に、これからご自分の道をどう歩いていきたいとお考えですか。

シュシャン 仕事をどう楽しくできるかを考えていきたいですね。どうしてかというと、仕事は思うようにいかないからです、ほとんど毎日。ええ、社長であっても。毎日ハプニングがあって、思うようにいかない。だから、遊びの心が必要です。仕事を楽しもうという心が。そのために3年計画、5年計画じゃなくて、一日一日の大事さをかみしめながら歩きたい。プランニングじゃなくて、一日一日。

曄道 同感です。毎日ハプニングです。これまでの経験をもとに、学生たちにこう教えたらいいとか、学生たちのプログラムをこうしたらいいと考えがちですが、これまでの経験は本当に尊重すべきなのかと思う場面が多いように感じます。
私は今、学長という立場ではありますが、一個人として歩んできた経験の中で物を考えがちです。そこから学生たちには、これから社会はどんどん変化してくから、展望をしなさい、ビジョンを持つ力が必要ですと伝えています。そのとき、最初は歴史を振り返って、歴史から学んで展望する力が大事だと考えたんです。ただ、自分の経験が生きてこない社会が目の前にあることもわかっています。過去から学ばなくていいという意味ではないけれども、今、学生たちに伝えるべきは、自分の目の前に何が広がっているかをよく見て、その先を考えるべきだろうと伝えるようになっていました。今日、社長の話を伺って、自分の伝えていることは、いい線行っているな、間違ってないぞと安心しました。非常にためになりました。ありがとうございます。

シュシャン ビジョンは大事です。例えば、10年後に何になりたいのって考えます。できるか、できないのかは、考えない。有名なサッカー選手になりたいとか、ニューヨークで仕事したいとか、自分で会社を経営して、30人をマネージしたいとか、沖縄にいい家を持って、家族がいて、リゾートのマネージをするとか。何かそういうビジョンで10年先を考えると、知らないうちに現実になってくる。

曄道 そう、近づいていく。できるかできないかじゃなくて。

シュシャン そうそう。できると言うと過去の延長線だから、自分自身の。これはやったことがあるからできるとか、コネクションがあるからできそうとか。そんなことは忘れて、10年間はEverything is possibleで、自分は何をしたいかだけを考えると。それを探すことは大変ですよ。これは理屈ではないね。目をつぶって、10年先、どういう人になりたいか、どういう気持ちで生きていたいか、何をしたいかを考えて、今度は目を開けて絵を描くんです。その絵を、自分の部屋にはってみると、これはすごいパワーになります。どんなハプニングがあっても、何かが近づいてくるのですよ。

― 近づく?こちらから近寄るのではなく、向こうから近づいてくるという意味でしょうか。

シュシャン そうです。1つ面白いことがありました。8年前、ゴディバ ジャパンで社員のワークショップをしました。そこでコーチから、今日のエクササイズは、みんなで絵を描こうと言われました。10年後、ゴディバ ジャパンはどういうものになっているか。何でもOKですよと。それで、40人のスタッフが合宿して、6チームに分かれて取り組みました。そのうちのあるチームが描いたことが、実現したのです。ゴディバ ジャパンが本社になる。絵には工場も描かれていました。それで、みんなハッピーと描かれていました。そのとき、ゴディバ ジャパンはゴディバグループのブランチでした。だから工場も全く持っていなかった。だけど、次々に予期せぬことが起こり、2年前、ゴディバ ジャパンは、ジャパン、コリア、オーストラリア地域の本社になりました。ベルギーの工場もゴディバ ジャパンの中に傘下に入ってるんですよ。

― 願えば、かなうということですか。

シュシャン そのときも、そういうふうに願いが叶ったんですよ。みんな、ビジネスプラン全くないです。工場は70億円は必要だから、どこから金が来るのかとか考えたら、できないことです。でも、By your dream.ゴディバ ジャパンの独立が決まったんです。

― 最後に、次の求道者を紹介していただけますか。

シュシャン ローソンの社長の竹増さん。ゴディバ ジャパンを理解してくださっています。
ウチカフェにも我々のスイーツを出してもらっています。

曄道 楽しい時間をありがとうございました。

シュシャン サンキュー・ベリーマッチ。

【ひとこと】 ビターな日々もあったけれど、夢見ることは忘れない。夢を思い描きながら、一射一射を放っていく。たくさんの示唆を与えてくれたお話は、どこかスイート。苦しい日々でも、明日が楽しみになる。今日はどこかでゴディバのチョコレートを買って家に帰ろう。(曄)