熱く、誠実に、18万人とマチの幸せを語る竹増社長は、一体どんな大学生だったのか。知られざる学生時代の秘話と、大学教育への思いを聞こう。
モデレーター 松本美奈(上智大学特任教授)
― 大学へのご意見、ご要望もお持ちではないでしょうか。ぜひ伺いたいです。
竹増すごく熱心に大学改革に取り組まれてると思います、本当に。逆に、企業も、大学が今努力してるぐらいに、もっと変わっていかないといけないなと思います。
曄道ありがたいお話ですが、常に我々の動きは遅いですね。
竹増大学が変わらなかった期間が長かったと思うんですよ。それを急激に変えていくパワーは大変なものでしょうね。多様な人たちが大学内にいらっしゃるでしょうから。運営にあたる理事、会社でいう役員の人選も含めて、いろんな考え方を入れていかないといけないのでしょうし。教授たちアカデミックな方も、インテリジェンスの方がいらっしゃって、他方では同窓会が出てきたり。国も、地方自治体も含めて、改革には多様なステークホルダーが関わってくるのでしょうね。
企業は、自分たちが決めれば変わっていけます。これに対して大学は、企業以上にステークホルダーが複雑ではないかと思います。企業以上に、俺が決めたんだからいいんだ、というわけにはいかないでしょうね。
上智大学ももちろんそうでしょうし、日本のアカデミアを引っ張っていこうとされている大学のご苦労には本当に頭が下がる思いがします。
だから学生にとっても、自分を向上させられる土壌が用意されているのではないかなと思います。
曄道学生たちに学びの自由度を提供したとき、それを謳歌できる真面目さがあることを期待してるんです。いくら我々は多様な教育プログラムを提供しますといっても、固定的にならざるを得ない部分があります。授業科目もそうです。決められたコースを粛々とこなしていくのではなく、学生自身がそれまで考えたこともなかった科目も取って、そこから目の前の世界が広がっていくパスをつくらないといけません。
大学の教員が固定的に構成されてる以上、教員のテリトリー、守備範囲の中で終始しがちなんです。だからこそ、学びの自由度を広げないと、学生たちのせっかくのポテンシャル、可能性を引き出せないまま卒業させることになると懸念しています。
竹増なるほど。実は、もう一回、学生生活をしてみたいと思っているんですよ。
― 楽しい大学生活だったのでしょうね。どのような学生だったんですか。
竹増私は現在の学生のみなさんのように真面目に勉強する学生ではなかったと思います。
― もう一回学生に戻って、何をしたいのでしょうか。
竹増社会人になって、今のような仕事をするようになって、初めて一般教養の大切さを痛感しています。広い教養と、一方である分野における深い教養と、この両面をもっと学生時代に身につけておけばよかった。
実際に身につけてらっしゃる経営者は非常に多いです。世界に目を向けると、本当にインテリな方が非常に多いですね。せめて歴史と文学ぐらいはもっと勉強しておけばよかったと後悔しています。
学生のときは勉強よりもゴルフでした。私はゴルフ部に入っておりまして、キャディーのアルバイトをしていました。朝は日の出とともにゴルフ場へ行って、お客様が回られる前にハーフラウンドして、それからアルバイト。お客様が上がったら、その後ハーフラウンドぐらいまた回って、キャンパスに戻るのは夜でした。仲間と食堂に集合してビール飲んで帰るみたいな、そういう生活をしておりました。
だから、卒業の年が大変でした。入学して5年目の4年生のとき、就職は決まっていたのですが、ほぼフルに単位を取っていかないと卒業できない状態でした。もうどれも落とせないので、本当に一生懸命勉強したんで、そのかいあってそこそこ「優」が並んだ。最後にゼミの教授に言われた言葉が、「何だ、竹増、お前は賢かったのか」。「いやいや、とんでもありません」みたいな感じで、卒業をぎりぎりさせていただいたんですよ。
だから今でも後悔しています。歴史や文学のような一般教養をもっと勉強しとけばよかったなと。
曄道社長に「歴史と文学」とおっしゃっていただけると、大学のメンバーが大喜びすると思います。それでなくても、人文学への風当たりは強いので。
今こうしていろいろな経営層の方々をお訪ねすると、多くの方々が大学でもう一回学びたいとおっしゃってくださる。最初のうちは、社交辞令かなと思っていました。
竹増いやいやいや、本当にそう思っています。
曄道ありがとうございます。
皆さんがおっしゃる、何かのヒントになる教養というのは、マネジメントのテクニカルな部分やスキルではないとわかってきました。社会人がずっと教養を学び続ける環境があっていいのかなと思っているんです。
竹増はい、そうですね。歴史や文学、美術は大事です。すばらしい経営層の方はたくさんいらっしゃって、そういう方に言わせると、これから地球上に起こることは全て古典に書いてあると。何にも新しいことは起こらない、全ては古典に書いてあるとおっしゃる方もいらっしゃいます。
― 教養を高めるために、何をされているのでしょうか。
竹増本は、小説などを読んで気を紛らわせているぐらいです。あとは、やっぱり英語は勉強し続けておかないとな、なんて程度です。教養と言えるようなレベルではないです。
― 最後に、ご自身の道、これからどう歩んでいきたいというふうに考えていらっしゃいますか。このインタビューは、「求道者たち」というタイトルですから。
竹増今、18万人の仲間とマチを幸せにするぞってことに向かって仕事をしておりまして、その責任と決意、それから明るい展望、いろんなものを自分の中で大事にしながら、日々、仕事をしています。そんなに壮大なことは考えているわけではないですけれども、これからも18万人の仲間をまずは大切にしたい。そしてこの大きな社会の中で、みんなと協力して、一つ一つのお店、そして一つ一つのマチを本当に幸せにしていけるようなことをしたい。つまり「みんなの役に立ちたいチャレンジャー」。チャレンジャーとしての気概を持って、みんなの役に立ちたい。それを18万人の仲間と取り組める幸せ、やりがい、そういったものを大切にして、今後も歩いて行きたいと思っています。
― そういう思いを抱えていらっしゃる竹増社長が、どんな方をご紹介くださるのか、ワクワクしています。デジタル化されても、社会は人のつながりでできていますから。
竹増オイシックス・ラ・大地の高島宏平社長。野菜の宅配、お料理キットを作ってらっしゃる。顔の見える農業を大事にしている方です。もともとはデジタル系で、独立されて。今の学生が、おお、いいなと思われるキャリアかもしれないですね。
【ひとこと】 上智大学は2020年から「プロフェッショナル・スタディーズ」を始めた。社会で生きる教養、世界の明日を創る教養を、企業の最前線で働く人々と分かち合いたいからだ。約30社から意欲に溢れる人がこの春も400人以上集まり、歴史や文学、社会問題に関する講座で切磋琢磨をしている。古典に書かれている知に磨きをかけて、次の世代に渡す。私たち大学人も「みんなの役に立ちたいチャレンジャー」であり続けたい。(曄)